今回はミツバチのことを書きます。
女王蜂の話です。
ミツバチの女王がどのくらい生きるのか、そして女王蜂の寿命には通常とは違ったニュアンスがあるということをお話しようかなと。
寿命という言葉がもつ意味
ミツバチの女王蜂がどのくらい生きるものか知っていますか?
試みに「ミツバチ 女王蜂 寿命」でググって見たところ、検索上位サイトにはその寿命は1~8年、4年、2~3年と書かれていました。
8年ってのはちょっと見たことがありませんが、実際に飼育している感じでは、だいたい2~3年といったところです。
もちろん半年しか生きないもの、4年目に突入するものもいますが、印象的には2年目、3年目で寿命を迎えるものが多いように思います。
これを聞いて何も知らない人は
「ふーん、そうなんだ。ミツバチの女王蜂は2〜3年いきるんだね」
と思っておしまいです。
でも、この「女王蜂の寿命」という言葉には、少しもの悲しいストーリーが隠されているのです。
というのも、女王蜂は「更新」されるものだからです。
更新ってのは、そのまんまの意味で、使えなくなったから新しいものに交換するってことです。
そう、女王蜂は使えなくなると交換されてしまうのです。
そんなことを聞くと
「誰にそんなことされるの? きっと養蜂家でしょ、人間てひどい・・・。」
と思うかもしれませんが、それは違います。
女王蜂の更新をするのは、他でもない群れの仲間であり、自身の娘でもある働きバチたちなのです。
働きバチは「この女王蜂、何だかつかえないな・・・。」と判断すると、新しい女王蜂を作り始めます。
そして、新しい女王バチが生まれると、古い女王バチはお払い箱にされてしまうのです。
なんだか機械の部品みたいな話ですが、養蜂用語で「換王(かんおう)」、カタカナ英語で「リクイーン」と言われていて、ミツバチ自身が行う自然の摂理です。
そして、その「使えない」と判断されるのがだいたい2~3年目くらいなのです。
生まれた年を1年目だとすると、2年目、3年目にはたいてい新しい女王蜂に更新されるということです。
それが女王蜂の寿命は2~3年だということの真の意味です。
でも、これって何だか生き物に対して使う「寿命」とはちょっとニュアンスが違うと思いませんか?
生き物に対して使う「寿命」って言葉は、もう少しなんというか生命感がありますよね。
その生き物の生命力が「ふっ」と途切れるとき・・・、そんな感じです。
でも、女王蜂の寿命については、どちらかというと機械なんかに使う「寿命」、いわゆる「耐用年数」に近いニュアンスなのです。
ちょっと悲しくなってきますよね。
実の娘たちに「あなた使えないからもういらない、新しいのにするわ」と言われ、捨てられるんです。
自然の摂理だとはいえ、とても悲しいストーリーです(泣)
しかもです。
ここまでの話には、さらに悲しさを上書きする事実が隠されているのです。
それは「使えない」と判断される理由です。
消耗品がなくなるとき
女王蜂が更新される理由、それは「産卵」です。
女王蜂にはそれしか仕事がありません。その唯一の仕事である産卵が正しくこなせるかどうかに「疑い」が持たれたとき、働きバチによって更新されます。
では、その「疑い」を持たれるきっかけは何か? という話になります。
たいていは、実際に産卵数が少ないときです。以前に比べて少なくなったり、他の群れと比べると明らかに劣るなどです。
どういう仕組みかわかりませんが、働きバチはその辺を敏感に察知するのです。
そして、ポイントは「産卵が少なくなる理由」にあります。
もちろん生き物なので生命力が尽きるとき、燃え尽きるに従って段々と産卵する力が弱くなってくる・・・。これはあると思います。
でも、ミツバチの女王バチについては、それ以外にもう一つの特別な理由があるのです。
それは「弾切れ(タマギレ)」です。
女王蜂は生涯に一度しか外に出ません。
その生涯一度の外出時に雄バチと出会い、交尾をすませて巣に戻ってきます。
これを「交尾飛行(こうびひこう)」といいます。
ちなみに交尾自体は複数の雄バチとします。あくまで交尾飛行にでるのが一度きりということです。
その後、分蜂とよばれる巣別れを除き、死ぬまで外に出ることはありません。
ひたすら巣の中で産卵だけをして、その生涯を終えます。
で、ここがポイントなのですが、女王蜂は一度きりの交尾飛行で複数の雄バチから授かった「弾(タマ)」を体の中に貯めておくのです。
そして、その貯め込んだタマを小出しにして有精卵を産むのです。
これが何を意味するかわかりますね?
タマには限りがあるということです。
ちなみにミツバチは有精卵がメス、無精卵がオスになります。そして、働きバチはすべてメスです。
巣を切り盛りする働きバチを作るためにはタマが不可欠であり、それには「限りがある」のです。
そして、そのタマを使い果たしたとき、それがタマ切れになります。
当然、タマをたくさん使えば、それだけ早くタマ切れしますし、そもそも最初に授かったタマが少なければタマ切れするのも早くなります。
もう少し具体的にいうと、旺盛な産卵をすると早くタマ切れし、交尾した雄バチの数が少なければそれだけ早くタマ切れするということになります。
そしてタマ切れするということは、「 有精卵を産めなくなる = 働きバチを産めなくなる 」ということです。
それは「産卵が正しくこなせている状態でない」のは言うまでもありません。
なので、女王蜂は働きバチによって更新されることになります。
生き物としての生命力の残量、余命を無視して、女王蜂としての「機能」を果たせなくなった時点で更新されるのです。
うーん・・・ なんだかなあって感じですよね。
女王蜂、完全にマシン扱いですから。
実際にこの春、私が飼育する群れのうちの一つが早々に更新されました。
去年の秋口に生まれた女王蜂です。
たぶん、交尾飛行で雄バチとの交尾が不十分だったのだろうと思います。
秋は春夏に比べて雄蜂の数が少ないからです。
一応、産卵はしていたのですがね・・・。ダメだったみたいです。
春に菜の花が咲き、群れが活気付いたところでいつのまにか女王蜂がいなくなっていました。
まだ、シーズン始まったばかりなのに・・・(泣)
こんな感じで、まだ半年しか生きていなくても、働きバチに「産卵が正しくこなせていない」と判断されると、ささっと新しい女王蜂に更新されてしまうのです。
こうなると女王蜂の寿命は、機械で言うところの耐用年数ですらないですよね。
いつまで生きられるかは消耗品の残量次第ってことになります。
そう、実は女王バチの寿命が2〜3年というのは、単に「弾(たま)」という「消耗品」がなくなる時期が2~3年後だということを表しているだけなんです。
なんだか「寿命」という言葉から受ける印象とはかけ離れている気がするのは私だけでしょうか・・・。
まとめ
女王蜂の寿命は2~3年。
でも、これはその頃になると新しい女王蜂に「更新」されるというだけのことであり、女王蜂の「耐用年数」のようなものです。
産卵に必要な「弾(たま)」という「消耗品」がなくなるのが、だいたいそのくらいの時期だというだけの話になります。
決して、生き物としての生命力が尽きるときではない。
以上、女王蜂の寿命の話でした。
では、また ^ ^